この新刊書の内容、タイトルの意味等々をブログ上で詳細に説明する労は取らないことにする。アマゾンの商品案内中の書籍内容紹介、或いは、フリーサンプルの冒頭の前書きを読んでいただければ十分なはずだからだ。唯一繰り返しておきたいのは、本書は、令和2年〜4年の三年間に渡りメルマガ『台湾の声』に投稿、配信された13編の記事を集め構成されている。詰まり筆者のブログ読者の中には同時に『台湾の声』読者もいらっしゃるかもしれない。今回本書に所収するに当たり、マイナーな更新以外は行わず、出来るだけオリジナルの記事を保持した。当時の記事と今回書籍化した文章の大きな相違は、後者にはルビを振ったことだ。特に、台湾の地名をどう発音するか?に注力した。
表紙の写真は台湾第二の高峰、日本時代の次高山(つぎたかやま)直下の嘗て火災に遭遇した玉山圓柏だ。表紙写真説明は奥付に僅かばかり入れ込んであるが、詳しい紹介は本文中であり、フリーサンプルでもカバーされていない(但し、『台湾の声』に投稿・配信済み)ので、ここに抜粋しておく:
ニイタカビャクシン:台湾名「玉山(ぎょくさん)圓柏(えんぱく)」、別名「香(こう)青(せい)」、マツ科ヒノキ属
玉山圓柏はマツ科ではなくヒノキ科の針葉樹だ。日本でも園芸用植物として通販でも容易に購入ができる程にポピュラーだが、その鉢植えの苗から、或いは公園の植え込みから台湾山岳の最高部に生育している玉山圓柏の姿態は想像が付かない。山の芸術家にして自身が芸術作品という表現が当たっているかもしれない。活きて人間の想像の及ばない枝振りを誇る姿態から、火災に身を焦がした後も艶やかな木肌を晒しながら自己主張を止めない玉山圓柏の立ち姿は何時まで眺めていても飽きない。さながら山の美術館の趣がある。
前段の黒森林紹介の続きになるが、雪山山頂直下、最後の登りに差し掛かると、背中を銀色に染めた無数の動物が、争いながら山頂を目指しているように錯覚してしまう、火災で丸裸にされた背の低い玉山圓柏の群生に出会う。奇観としか言い様がない。
次に、雪山山頂から西側に少し下ると1号圏谷の背面は長いガレ場(大小様々な岩石の斜面)となっており、通称雪山西稜と呼ばれる山域の入口に当たる。そのガレ場を1時間程降り切った場所に翠(すい)池(ち)と呼ばれる湖沼がある。先のガレ場も翠池も氷河地形である。翠池の標高は約3,300b、台湾最高所の湖沼である。翠池の周りは台湾で最大、約90fの玉山圓柏の純林であり、中には樹齢が数千年を越えるものもあると謂う。雪山山頂付近の群生は丈が低い低木(台湾では「灌(かん)木(ぼく)」、幹が無い樹木)だが、翠池のものは高木(台湾では「喬木(きょうぼく)」、幹が有る樹木)で真っ直ぐに起立したものが純林を形成している。玉山圓柏は、樹高35b、幹径100〜300センチという紹介を通常目にするが、これは神木級の古木の数字だろうと思う。林務局委託事業の研究報告(註4)の中に、翠池の玉山圓柏は、平均樹高12b、幹径25〜60aの範囲、但し中には180aに及ぶものありとの記述がある。台湾国家公園の公式サイト(註5)の説明では、玉山圓柏の成長速度は非常に緩慢で、幹径1センチの成長に必要な時間は22.8年だそうだ。つまり、幹径5センチの若木にしか見えない玉山圓柏は、実は樹齢100年を優に越えていることになる。(終り)
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