【写真説明】古道とは全く関係の無い一片。苗栗県泰安郷二本松に至る目的で、台中県東勢の町を過ぎ東勢林場に到る自動車道の道端で見付けた「善福橋」架橋記念碑である。その橋は写真後方に写っているがこれは掛け直したもので、それすら今は廃棄されており記念碑だけが佇む。碑には橋建立の日付けも由来も無く寄進者の名前のみが記されている。寄進された金額が「円」表示になっいるので日本時代のものだと考えられる。水利事業に関わるこのような日本時代の遺物は丁寧に探せば台湾にはまだかなり残っていると思う。
このブログの「霞喀羅古道−6」以降は、本古道の周辺風景として理蕃に関する記事を強引に並べてきた。強引という意味は、当時の理蕃道網を丁寧に追いかけていくと際限なく周辺風景がどんどん広がっていくのだが、どこまでを当時シャカロ警備道・サカヤチン警備道と呼ばれていた現在の霞喀羅古道の周辺として定義出来るかは判らない為、私の一存で勝手にピックアップしたという意味である。現在台湾第一のハイテク都市を抱える新竹県の山間部は今でも日本統治時代の山深さを残している。シャカロ・サカヤチン警備道は決して独立した道路ではなく、東西南北で他の理蕃道と繋がっていたわけで、それらの理蕃道が歩道として整備され古道の名をいまだ冠せられていないというだけの話である。
霞喀羅古道に関しての調査・研究はかなり進んでいる。林武局のサイト「国家歩道導覧網」で、この古道に関する複数の調査・研究報告を誰でもダウンロードできる。その中で以下の報告書(「霞喀羅古道的資源調査研究」)が駐在所遺構を図入りで解説してあり判り易いと思うので興味のある方は参考にして欲しい:
http://trail.forest.gov.tw/InfoShare/2005_NTS_Conference/S4-1_Lee%20Rui%20Chong.pdf
(「国家歩道導覧網」>「正体中文」>「資料下載」>「2005年国家歩道系統研討会」>「主題四」)
但し、大規模な資金を投入して整備された古道は別として、台湾の古道調査の常としてその結果は書き物としては残るが、調査・研究の対象となった現地は大概そのままに放置しておかれるので、私のような素人が後追いで踏査しようと思っても至難の業であることが多い。台湾に於ける古蹟の保存・保護の実情はこんなものか?と考えていたのだが、最近は私も漸く事情が飲み込めてきた。北回帰線が走るこの台湾では草木の成長は実に速いということだ。たちまち藪に覆われてしまう。
今回のブログのタイトルである「北坑渓古道」は実は私はまだ歩いたことがない。これは私の備忘録として残しておく為である。この古道の存在を知ったのは、偶々地図を眺めていたら苗栗県泰安郷にある「二本松」という地名が目に留まった為である。明らかに日本時代からの地名を引き継いだものであり、「雪見」という文字も飛び込んできた。二本松は数年前に整備が完了した北坑渓古道の南側起点であり、古道入口にある駐在所跡だけでも一度見ておこうと目論んだのだが辿り着けなかった。以下の内政部営建署のサイトにこの古道の概要に加え、荒れた古道を整備する様が写真付きで説明してある珍しい資料があるので参考にされたい:
http://www.cpami.gov.tw/pwi/cp/eco4-23-8.pdf
(「内政部営建署」>「営建資訊系統」>「17.生態工法網站」>「景観跡道系統工程類:8」)
この古道はシャカロ警備道の南に連なる警備道で、「国家歩道」の中では鹿場連嶺道として扱われている。鹿場(日本時代はチエブス社)は苗栗県南庄郷下のタイヤル族の部落であり、この部落の東側に聳える鹿場大山の稜線を乗り越す道路というのが連嶺道の意味であろう。霞喀羅古道の西側入口である清泉温泉を過ぎ省道122号線を更に南下、新竹県から苗栗県に入るとすぐにこの省道の終点である観霧森林遊楽区に到る。ここから大鹿林道が始まり大覇尖山への登山口に繋がる。観霧は日本時代、「もぎり」(今台湾では「茂義利」の漢字が充てられているが、多分日本語音表記だと思う)と呼ばれていた場所である。ここから北坑渓沿いに南下、泰安郷二本松に到るのが現在歩かれている古道で、全長30キロ強。当時の警備道は更に二本松から今度は大湖渓沿いに西に進み、省道3号線沿いの大湖郷大湖、現在では台湾有数の苺の町に到る。因みに、省道3号線の苗栗県内の部分は当時の蕃界境界線にほぼ沿ってると考えてよさそうだ。
私の場合は高雄の方から行くので東勢郷東勢から入り、油桐花が咲く頃は花見客で非常に賑わう東勢林場を経て二本松に到ろうとしたのだが、この林場を過ぎて道路が大安渓に沿って進み出すとすぐに大規模な護岸工事に行き当たり引き返さざるを得なかった。何の変哲も無い一基の記念碑だけが成果だった。 (終)
2006年11月21日
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