【写真説明】6月下旬とは台湾では夏場である。そんな時に台湾の低山に登るのは推奨出来ない。容易に脱水症状を起こしてしまうからである。が、私はとにかくどっぷり汗をかきたいという渇望がある。草を搔き分け搔き分け山中を徘徊するのが至福である。女仍山(標高804メートル)は省道9号線のパイワン族の村、伊屯(日本時代のイトンザン)に登山口がある。この中央山脈最南部を横断する自動車道路上に標識はあるが、実際何処が登山口なのかは地元の人に聞かなければならない。頂上に至る稜線に出てから実際頂上に至るまでが長く辛い!途中、気持の良い沢に行き当たるのが救いである。登山口と頂上との標高差660メートル、往復約4時間。
牡丹郷の北側に位置するこの旧社名は、『臺灣地形圖新解』では同じ漢字を充て「にうない」(現代語読みは「にゅうない」)のカタカナが振られている。「乃」(訓読みは「すなわち」、「なんじ」等)は日本語音読みでも北京語発音でも「ナイ」であり、他方「仍」(同「なお」、「しきりに」等)の日本語音読みは「ジョウ」とか「ニョウ」である。つまり、充てた漢字が間違っているとしか思えないが、現代台湾でも女仍はそのまま使われ続けている。恐らくは旧社名の漢音訳なので女仍自体に意味は無いと思う。
前回のクスクス社の記事と同じく、今回も旧社の紹介というより山の方の紹介である。女仍社旧社を尋ねる機会があるかどうかは、クスクス旧社程その確率は高く無い。現在の牡丹村は、牡丹社、牡丹中社、そして女仍社の三社が日本時代の昭和10年頃に移遷させられて形成されたそうだ。現在の市販地図を見ると女仍旧社が存在したであろう場所に、林務局護管所があることになっているので、そこまでは入れれば何らかの手掛かりがあるかもしれない。こんなことを延々と書いていても仕方がないので、もう一度前回作成・掲載のクスクス山・社と女仍山・社を取り巻くダイヤグラムを参考にして欲しい。
さて、クスクス山と女仍山は標高以外に何が異なるかというと、後者は台湾小百岳の一座であるということだ。台湾小百岳の選定基準の一つは、頂上、或いは頂上付近からの眺望が優れていることだが、頂上に至る稜線に出た後もゴージャスな眺望が約束されるわけではない。但し、熱帯特有の丈の高い生命力旺盛な植物の間を潜り抜けるようにして前進するのは苦痛であり同時に快感である。恒春半島の低山を登る醍醐味である。(了)
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