【写真説明】左写真は、屏東県牡丹郷中間路の一景。二枚目は中間路旧社へ至る産業道路入口と旧社案内板。三枚目は写真は中間路旧社、カジャジャナン社跡。右写真はクスクス(高士佛)山への登山指導標。
台湾地名考証のバイブルとして夙に著名な安倍明義著の『台湾地名研究』(昭和12年)は今現在は中国語復刻版があるのだが、これがその原著の全訳そのものなのかどうかは私では判らない。どうもダイジェスト版ではないかと私が勘繰るのは、その復刻版を入手する前に相当な大部を勝手に想像していたのでそんな塩梅になったのかもしれない。日本統治時代の考証なので、無論、当時と戦後改称とのリンクはこの復刻版では提供されていない。
さて、前から気になっていた地名がある。「中間路」というパイワン族の村である。台湾海峡側の車城と太平洋岸を結び、途中四重渓温泉、石門古戦場、牡丹村を経由する屏東県道199号線[地図]沿いの村である。地図上で牡丹庫(ダム)と牡丹社との間のことである。
牡丹郷の郷公所(役場)がある石門村と現在の牡丹村との間には、茄芝路、中間路、佳徳、鉄線橋といういずれもパイワン族の村が市販の地図上に並ぶ。199号線沿いと言ってもいいが、地形上はこれらの村々は牡丹渓沿いに点在している。日本時代の牡丹社の位置は、現在の牡丹村より西側、現在の鉄線橋辺りに相当する。鉄線橋は日本人が台湾に持ち込んだ構造だというのが私の理解で、今現在も同地に橋が掛かっているのかは未確認である。茄芝路はチョウカチライ(頂加芝來)社に由来するのは判るが、中間路と佳徳は判らない。
中間路が何故私の印象に残るかというと、この村の教会脇に旧社の案内板が設えてあるからで、これまでその脇を何度も往き来しながらついぞ訪ねてみる機会がなかったからだ。大凡の地図は案内板に記されていても旧社に辿りつくのにどの程度の時間が掛かるか記載がないのが、何時も駆け足状態の私にとって一番の不安だ。それと、この案内板は、恒春半島、つまり屏東県南部のパイワン族旧社案内板としては共通の様式なのだが、その各案内板の下には「入山注意事項」として以下の決まり文句が書かれている。これも山中足を踏み入れるのを十分躊躇する理由となる。
「本山区内には旧社遺跡があり、妄りに入山して伝統的なタブーや関連法令を犯さないこと。入山を希望する場合は、まず役場に連絡を入れること。」
この日、牡丹池山(標高554メートル)に登る積りだったのだが、一時間程度で登山口と頂上を往復出来るような代物ではないことが判り、なら、その時間を中間路旧社探訪に充てることを思い付いた。旧社案内板から産業道路が付いている。何処まで辿れば旧社に行き当たるかは予想が付かないので、片道最長45分だけ駆け上がることにした。結局、旧社跡に気付かず素通りしてずんずん登ると、突然、登山用の指導標に出食わした。高士佛(クスクス)山(同514メートル)への登山道と産業道路との出会いに立つこの指導標、凡そ三年前、台風直後に同山に登った記憶が忽ち蘇って来た。
案内板に依ると、中間路の旧社名は「カジャジャナン」、これだけでは中間路という漢音表記との手掛かりが掴めない。当時、約1.5ヘクタール内に約300名居住していたそうだから、相当大きな集落だったことが判る。クスクス山南面に存在していたクスクス社(今は更に南面に移遷、現在の高士)はこのカナジャジャン社を祖先とすると記されている。
当時、牡丹社とクスクス社との間には連絡道があり、クスクス山直下まで延びている。私が歩いた産業道路の一部はこの連絡道だった可能性がある。
尚、最近の中間路はニュース報道への露出度が高い。昨年暮れ近く、2009年8月の歴史的な被害を齎したモーラコット台風も同地を襲ったのだが、「永久屋」(どんな台風が来てもびくともしないという意味だろうか?集合住宅のこと)が落成し「プリム(Puljimu)部落」と命名されたそうだ。(了)
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