2009年01月24日
蘇花古道−2
【写真説明】道路開鑿に伴い設営された営盤(この場合は、羅大春提督駐留軍駐屯地)は古道沿線各所に残存するが、古蹟指定等の保存活動は筆者の見た限りでは一切なされていないので、写真で見るように、普通の石壁、石垣と区別が付かない。左、中央写真は住居の一部になって残存している例(宜蘭県員山付近)、右写真は道路脇の石垣として利用され残存している例(花蓮県新城付近)である。中央写真の石組みは「人」の字型と表現されるが清代営盤石組みの特徴だそうだ。
[後山北路=蘇花公路?]
沈葆禎の台湾赴任が1874年、羅大春も同年台湾着、開鑿が開始され、翌年1875年には現在の蘇澳−瑞穂間約170キロが完成するのだが、数年後には全路廃棄されてしまう。
日本の台湾領有が開始されるのが1895年(明治28年)、蘇澳−花蓮間の開発・経営が本格化するのは第五代台湾総督佐久間左馬太の就任(1906年、明治39年)以降だから、その間約三十年の隔たりがあり、北回帰線が走る台湾の草木の成長の勢いを考えたら、後山北路は殆ど消滅していたはずだ。
従来は、羅大春開鑿の北路→日本時代の臨海自動車道→現在の蘇花公路という具合に歴史とルートを重ね合わせ、清代開鑿の北路が現在の蘇花公路の前身と長い間漠然と考えられてきた。今でも台湾ではこの古道の一般向けの紹介の殆どがそう説明しているのだが、最近の研究では、後山北路と日本時代の臨海道との間の関連性は無かった、即ち、蘇花公路の前身は後山北路ではない、という結論になっている。
しかしながら、筆者のこの蘇花古道シリーズでは、戦後に現在の蘇花公路が出来上がる以前、蘇澳−花蓮間に開鑿された道路はすべて広義の古道と捉えるという立場に立って紹介を進める。
[清代開鑿から現在の蘇花公路まで]
清代に開鑿した部分は消滅していると書いたが、その跡は、多数の駐屯地跡(営盤)、開鑿記念碑、清軍墓地という形で残っており、実際今でも観察することは可能だ。
営盤は既に宜蘭市を過ぎた辺りから散在しており、筆者自身省道9号線から然程離れていない場所に存在しているものは出来るだけ見てみたが、史蹟に指定されたものはなく、運が良ければ住居や塀の一部になっているか、廟の下敷きになっているか、そうでなければ単なる石積みの残骸として野晒しになっているだけなので、ここでは上掲の三葉の写真に依る紹介のみに留めておく。(メルマガ「台湾の声」2007年6月14日掲載分の一部を改編:次回へ続く)
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道路を開鑿し軍を駐屯させても日常的に何をするかだと思います。開山=産業育成、慰撫=教育だとすればやることは山ほどありますが、道を作った後は軍の基地の維持管理だけだとしたら然程重要な事ではないような気がします。更に“慰撫”される側の原住民にとっては“慰撫”の内容からして敢えて清軍用に開鑿された(と思う)道は使わずそれまでの生活道を使っていたのではと考えます。そんな事で廃棄されたのではと考えますが、いかがでしょうか?
右側の写真の石垣ですが、道路より先に出来たのはわかりますが、どうしてこれが営盤だったと分かるのですか?
現在台湾で使われている古道名は別に統一された呼称基準があるわけではありませんので、現在の呼称(私はこれを「通称」と言っていますが)に拘るともともとの古道の成り立ち等を誤解してしまう可能性があります。
例えば、日本時代の各原住民警備道路が何と呼ばれていたかは、私は手元に資料を持ち合わせていませんのでよく判りません。それらの警備道は台湾総督府にとっては「戦略上重要な道路」だったでしょうから、それら道路網はかなり系統的に整備されたはずで、今はそれらをぶつ切りにして色々な古道名を付けています。これが、呼称に拘ると成り立ち等を見誤るという意味です。
後山北路を含む清代開鑿の三本の基幹道路開鑿の性格は、日本との陣取り合戦と台湾経営だと理解しています。陣取り合戦の先頭に立つのは、農民ではなく、兵隊。兵隊の起居する場所が営。台湾経営は益無き事として軍を派遣した大元が興味を失くしてしまえば、それまで築いたものは当然廃棄されてしまう。或る人が金儲け目当てにマンションを建て始めたが、途中で資金が続かず工事は中止、そのまま廃墟になってしまう。同じ構図だと思います。
これら三枚の写真がどうして営盤だったと判るのか?私では当然判りません。以下の種本があります:
李瑞宗著、「蘇花道今昔」、2003年7月初版、太魯閣国家公園管理処出版
○○「古道」は後の都合で名付けられたものということですね。
マンション⇒廃墟の喩え、よく分かりました。以前読んだ物語の中に「毎年洪水が起こるような蘭陽平野のカヴァラン族の部落(宜蘭?)に台北から漢人が交易の為に淡蘭道を通う」というのがありました。これは清軍が入る前のようでしたので、必要なら道は出来、残るということですね。