2009年01月17日
蘇花古道−1
【写真説明】清朝羅大春提督に依る蘇澳-花蓮間道路開鑿に纏わる碑は三基が現存している。台湾鉄路蘇澳駅横のアーケード街に隣接する晋安宮。ここにはその内二基、「北路里程碑」或いは「羅提督里程碑」と通称されるものと「羅提督義学碑」、もともとは別々な場所に建立されていたものだ。前者には、蘇澳を起点とし花蓮までの各マイルストーン地点の距離が刻まれている。右写真はその拡大図。国、県等に依る古蹟指定にはいまだなっていないようだが、盗難防止の為か、石碑背面をご丁寧に壁に接着させてある。筆者はオリジナルの蘇花古道開鑿に関わる第一級の古蹟と考えているので古蹟をこのように取り扱っていいものか?と疑問を感じるのだが、他方、このように屋根付きで守り地元の人の信仰の対象になっているので、寧ろ石碑にとってはその方が有り難いのかもしれないとも思う。
今後暫く蘇花古道に関する記事を連載する予定であるが、閲覧するに当って読者の方々に以下の三点を了解していただきたい:
●記事中のカタカナ表記された地名(タイヤル語の日本語音訳)は、日本時代に出版された刊行物(地図、パンフレット等)上の一般的な表記に従った。
●日本時代、「高砂族」と称されていた原住民族は戦後は「高山族」等と呼ばれ、日本時代の分類に従い、タイヤル、サイシャット、ブヌン、ツウオ、ルカイ、パイワン、プユマ、アミ、ヤミ(タオ)の「九族」が台湾政府によって承認されてきた。この区分は今でも台湾では一般的に広く用いられており、私の記事の中でもこの区分に従っている。しかしながら、2000年以降、台湾原住民族の民族意識と地位向上の要求の高まりを背景に、サオ、カヴァラン、タロコ、サキザヤ、セデックの五族が新たに台湾政府(正式には行政院原住民族委員会)によって承認され、現在は十四族。タロコ族は従来はタイヤル族に属すると考えられてきた為、本稿の中でもタイヤル族の一つという扱いになっており、日本時代の表記に従った「タロコ蕃」とか、タイヤル族の中の一群という意味で「タイヤル族群」という表記にしている。
●本文中の「省道」は「台湾省道」の略で、実質上は日本の「国道」に相当する。但し、台湾政府交通部はまだこの呼称を継続使用しているので、それに従った。尚、現在の台湾で「国道」とは「高速公路」、即ち高速道路に対する呼称である。
蘇花古道は文字通り宜蘭県蘇澳と花蓮県花蓮との間を結ぶもので、現在の蘇花公路、清水断崖を含む台湾の海岸線美を最も具有する自動車道、省道9号線の前身と長い間考えられていたものだ。
蘇花古道は、清代開鑿まで溯ることが出来るが、清代に開鑿された道路そのものは既に消滅しているし、日本時代に開鑿したものも今でも歩ける部分は僅かなので、今回は、蘇花古道の歴史を概観した後は、現在の蘇花公路に沿って誰でも自動車、バス、汽車等で簡便に立ち寄れ、加えて余り紹介される機会の無い古道にちなんだ景点を、蘇澳から花蓮に南下する順に選んで紹介する予定である。
[後山北路と称されていた蘇花古道]
牡丹社事件(1871年、明治4年)に続く台湾出兵(征台の役、1874年、明治6年)を契機に、日本の台湾領有の意図を察した清朝は、沈葆禎を台湾経営・海防担当の欽差大臣に任命、それまで「化外之地」、「無主之地」(皇帝の権威の及ばない地の意)とされていた台湾の積極的な開発・経営へと転換していく。
沈葆禎は福建省出身、清朝末期の洋務運動を担った中心人物で、妻は、アヘン没収・焼却・禁輸を推し進めイギリスとのアヘン戦争の端緒を開くことになった林則徐の娘である。沈葆禎は台湾西海岸側の行政区画を整備すると同時に、「開山撫蕃」(山を開き“蕃人”を慰撫する)の名のもとに、当時「後山」[アウソア]と呼ばれていた東海岸の開発に着手、北部(蘇花古道)、中部(八通関古道:本ブログの同カテゴリー参照)、南部(崑崙拗古道:本ブログの同カテゴリー参照)の各々に中央山脈西側から東海岸に達する道路を開鑿する。蘇花古道はこの為「後山北路」と称されていた。
沈葆禎はこの三本の開山撫蕃道の開鑿に各々異なる人物を任に当たらせるのだが、北路を担当したのは羅大春提督である。実際は花蓮より更に南下、現在の花蓮県瑞穂辺りまで開鑿されたようだが、現在、蘇花古道と呼ぶ場合、通常は蘇澳−花蓮間と説明されているのは、現存する清代の開鑿碑が花蓮までの開鑿をまず目標にしていたことを示していること、加えて、その後の日本時代の同地域の開発を経て現在の蘇花公路に至る歴史を説明するのに蘇澳−花蓮で区切った方が都合がいいからだと考えられる。
因みに、「後山」は中央山脈東側を指しこの呼称は今でも目にすることがあるが、これに対し当時は台湾を大きく二つに区分する呼称として「前山」も用いられていた。中央山脈西側の未開発地域という意味だ。(メルマガ「台湾の声」2007年6月14日掲載分の一部を改編:次回へ続く)
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